古き佳き時代を生きた生粋のチュニス人、カッドゥール・スラルフィの音楽
20世紀のチュニジアを代表する作曲家・バイオリニストのカッドゥール・スラルフィ(1913~1977)へのオマージュ・アルバム(ちなみに女性のみの楽団エル・アズィフェットを率いて2001年に来日公演を果たしたアミナ・スラルフィは彼の娘)。
チュニジア音楽、オリエンタル音楽に加え西洋音楽の作曲法も学んだスラルフィは、オリエントの深い伝統に基づいた繊細な音の動き、地中海的な明るい響きと軽快に弾むリズム、西洋音楽の書法や形式感を作品に合わせて巧みに用い、多彩な作品を生み出した。
彼が生きたのはチュニジアでいわゆる近代歌謡が最も花開いた時代。このアルバムに収められている声楽曲も同時代に活躍した有名歌手たちのために書かれたものだが、その録音はきわめて入手しづらい。その点でも本作は大変貴重である。
器楽曲は、アラブ音楽の主要な形式であるサマイ形式(最終楽章以外は8分の10拍子)とルンガ形式による各1曲と独立を記念して作曲されたという「ファルハ(喜びの意)」の計3曲が収録されている。
力のある演奏家たちによる洗練されたアンサンブルで、各楽器や歌による即興演奏も聴き応えがある。しばし時を忘れて、じっくりと聴き入ってほしい。
<益田彩香>